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東京高等裁判所 昭和58年(く)61号 決定

少年 H・N(昭三九・八・一三生)

主文

原決定を取り消す。

本件を千葉家庭裁判所に差し戻す。

理由

本件抗告の趣旨は、少年が提出した抗告申立書および法定代理人親権者父、母が連名で提出した抗告申立書にそれぞれ記載されたとおりであるから、これらを引用するが、要するに、原決定は処分が著しく不当であるから取り消すべきである、というのである。

よつて、少年保護事件記録および少年調査記録を精査して、検討する。

原決定が認定した犯罪事実は、少年が昭和五六年一〇月一三日午前四時一〇分ころ、千葉県船橋市○○町×丁目××番××号付近路上において、所有者不詳の自転車一台(時価五〇〇〇円相当)を窃取した、というものであるが、少年は、過去にオートバイ窃盗(最終バスがなくなり、歩くのがめんどうだからと、敢行したもの。)により審判不開始となつたことがあるほか、本件非行より約一年前にも自転車窃盗(教習所に通う途中、歩くのがめんどうだからと、敢行したもの。)を犯しており、本件は少年が犯した三回目の二輪車窃盗事犯であること、少年がこのようにくりかえし社会的規範に不適応な所為に及んでいるのであるから、本件当時においては、少年の生育歴、性格、両親の監護養育態度等を検討、考慮したうえ、本件について少年に対し、相応の保護的措置を講ずる必要があつたとも考えられる。

しかしながら、少年は、本件非行より約一年前に犯した前記自転車窃盗および本件非行の前後に犯した道路交通法違反(自動二輪車の無免許運転)、同幇助(暴走二輪車に同乗)保護事件により、原裁判所(本件と同一裁判官)で昭和五七年三月二五日保護観察処分に付され、原決定当時(昭和五八年二月八日)にはすでにその保護観察中であつて、本件は、少年が保護観察処分となつた右の自転車窃盗等事件のいわば余罪の関係にあつたものであり、しかも保護観察処分となつたその前件の調査段階においてすでに判明していたもので、昭和五六年一二月三日調査官から原審裁判官に未送致事件として調査報告され、前件についての審判当時にはすでに千葉家庭裁判所で事件受理(受理日昭和五七年三月二〇日)もされているのであるから、本件は、少年の利益のために、保護観察処分となつた前件と当然併合審判されてしかるべき事件であつた。

しかも、本件は原決定も説示しているように、路上に放置されていた鍵の壊れた古自転車を帰宅するための足代りに乗り去つたという事案自体軽微なものであるし、また司法巡査作成の昭和五六年一二月一六日付捜査報告書によれば、所轄の警察署および県警察本部に対し被害届出の有無を照会したが、そのいずれにも被害の届出はなく、さらに本件犯行場所付近一帯において聞き込み捜査を行なつたが被害者を発見するに至らなかつたというのであるから、成人の刑事事件であるならば、窃盗罪として立件できるかどうかも疑わしい事案というべきである。

以上のような、本件処理の経過と本件事案の内容にかんがみると、少年の生活態度が前件保護観察処分前とほとんど変化がなく、遊び中心のだらしのないものであり、両親が監護養育態度に一貫性を欠き、具体的な指導方法を持たないからといつて、ただちに、現在保護観察中の少年を、本件につき、保護観察処分以上に重い少年院送致の処分に付することは相当でない。したがつて、少年を中等少年院に送致した原決定の処分は重すぎて著しく不当であるから取消を免れない。論旨は理由がある。

よつて、本件各抗告は理由があるから、少年法三三条二項、少年審判規則五〇条により原決定を取り消して、本件を原裁判所である千葉家庭裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 鬼塚賢太郎 裁判官 杉山忠雄 苦田文一)

抗告申立書〈省略〉

〔参考〕 少年調査票〈省略〉

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